2026年2月某日
金曜の夜、仕事帰りにルミネに寄った。
今週もよく頑張ったと思う。月曜から金曜まで、ちゃんと笑って、ちゃんと敬語使って、ちゃんと期日守って。
誰にも文句言われてない。むしろ「最近調子いいね」って先輩に言われた。
だから自分にご褒美をあげようと思った。
…いつからだろう、金曜の夜にコスメを買うのが習慣になったの。
今日はデパコスのリップ。
3,500円。色は「ドライローズ」。
BAさんに「お客様の肌にすごく映えますね」って言われて、そうですかって笑って、買った。
レジで支払いを済ませて、厳重な包装で受け取って、ルミネの出口に向かいながら思った。
この口紅、誰に見せるんだろう。
- 職場の蛍光灯の下?
- 休日のスタバ?
- 一人暮らしの洗面台の鏡?
…やめよう、こういうこと考えるの。自分のために買ったんだから。
自分が綺麗だと思えればそれでいいんだから。
でも駅に向かう途中、ショーウィンドウに映った自分の顔が、なんかすごく疲れてて。袋を持ってるのに、全然嬉しそうじゃなくて。
なにやってるんだろう、私。
家に帰って紙袋を開けた。
リップを手の甲に塗ってみる。うん、綺麗な色。BAさんの言う通り、肌なじみがいい。
でもさ、手の甲に塗ったリップを見ながら、なんか泣きそうになった。
ドレッサーの引き出しを開けると、同じような「ご褒美」がぎっしり入ってる。
- 先月のアイシャドウパレット。
- 先々月のハンドクリーム。
- その前のヘアオイル。
全部、金曜の夜に買ったもの。
今月だけで、全部で、たぶん2万円は超えてる。
2万円分の「ご褒美」。ちゃんと使ってる。ちゃんと肌も髪も手入れしてる。
なのに、全然満たされてない。
会社の同期のまいちゃんは、金曜の夜は彼氏と過ごしてる。
ストーリーに上がる「お疲れさまでした」の写真。二人分のピザと、映り込む男の人の手。
別にまいちゃんを羨ましいとは思わない。
…嘘。思ってる。でもピザが羨ましいんじゃない。
あの写真の向こう側にあるもの。ソファで隣に誰かがいること。「今週もお疲れ」って言ってくれる人がいること。
たぶん私が本当に欲しいのは、リップでもアイシャドウでもなくて。
…いや、やめよう。これ以上考えると惨めになるだけだから。
お風呂に入りながら、ぼんやり考えた。
「自分へのご褒美」ってなんだろう。
コスメを買う。スイーツを食べる。ちょっといい入浴剤を入れる。
Netflixで映画を観る。一人でも楽しめることは山ほどある。
でも最近、どれをやっても3時間くらいで効果が切れる。
映画のエンドロールが流れると、部屋が急にシンとする。お風呂から上がると、誰もいないリビングが広すぎる。
スマホを見る。LINEの通知はない。あるのはショップのクーポン通知だけ。
布団に入って、枕を抱く。冷たい。
当たり前だけど、枕には体温がない。
こないだ、美容院で髪を洗ってもらった時に、ちょっと泣きそうになった。
シャンプー台で目を閉じてる時、美容師さんの指が頭皮に触れてて。
それがすごく…気持ちよくて。
あ、違う。気持ちいいっていうか。
安心した。
人の手が、自分の身体に触れてる。それだけで、身体の奥のほうがじわっと緩んだ。力が抜けた。
「お疲れですか? 凝ってますね」って美容師さんに言われて、「そうですかね」って笑ったけど、本当は凝ってるのは肩だけじゃなくて、全部。
心も、身体も、全部がガチガチに固まってる。
でもこれ、美容院だから許されるんだよね。
髪を洗ってもらうっていう正当な理由があるから。
じゃあ、ただ「誰かに触ってほしい」っていう理由は?
…それは許されるの?
私、たぶんおかしくなってきてる。
コスメを買って満たされないから、もっと高いコスメを買おうとしてる。来週はデパートの1階に行こうかなとか考えてる。
でも薄々わかってる。
5,000円のファンデーションを買っても、8,000円の美容液を買っても、たぶん同じ。
帰り道の私の顔は同じように疲れてて、同じように誰もいない部屋に帰って、同じように枕を抱いて寝る。
本当に欲しいものに、私はお金を使えてない。
じゃあ本当に欲しいものってなに?って自分に聞いたら、答えが出てきて、それがあまりにも惨めで、声に出せなかった。
体温。
人の体温が、欲しい。
誰かの手のひらが、私の背中に触れてくれること。
頭を撫でてくれること。「大丈夫だよ」って言いながら、ぎゅっとしてくれること。
…25歳にもなって、こんなこと考えてるの、情けなさすぎる。
ていうかこれ、恋人が欲しいってこと?
違う気がする。恋愛がしたいんじゃなくて、もっとシンプルに、もっと原始的に、ただ「触れてほしい」。
こんなの人に言えない。「寂しいから触ってほしい」なんて、気持ち悪いって思われる。重いって思われる。
だから黙ってコスメを買う。
「自分へのご褒美♪」って、SNSに載せたりはしないけど、心の中でそう言い聞かせる。
これはご褒美。私は自分を大切にしてる。モノで自分を甘やかしてる。
本当は、モノじゃないものが欲しいくせに。

今日買ったリップ、ドレッサーの引き出しにしまった。
たぶん来週も何か買うと思う。再来週も。
この空洞を埋めるために、ずっとモノを買い続けるのかな。
…もっと別の方法があるのかもしれない。
お金の使い方を変えれば、この渇きが止まるのかもしれない。
でも「別の方法」がなにかは、まだわからない。
わかったとしても、きっと怖くて手が出せない。
今の私にできるのは、引き出しにリップをしまって、お風呂に入って、冷たい枕を抱いて寝ること。
おやすみなさい。
明日は土曜日。予定はない。
追記
朝起きて読み返したら、重すぎて消そうかと思った。
でも、消さない。これが今の私だから。
たぶん同じようなこと感じてる人、いると思うから。
コスメじゃ埋まらない何かを抱えてる人に、「私もだよ」って言いたくて。
…それにしても、本当に欲しいものにお金を使うって、どういうことなんだろう。
いつか答えが出たら、またここに書く。

