この日記を書き始めた日の自分の言葉を読み返して、コートも脱がないままテーブルに座っている。
検索履歴を消しながら泣いていたあの夜の私に、今の私が伝えられることはなんだろう。
女性用風俗の体験を経て、50回目の日記を書く。
スマホの画面を暗くして、布団にもぐった夜のこと
この日記を書き始めて、どのくらい経っただろう。
最初の投稿日を確認しようとスマホをスクロールしたら、一番下に出てきた自分の言葉に、しばらく画面を見つめたまま動けなくなった。
誰にも触れられない生活が2年になった、って書いてたあの夜。日曜の23時、アラームをセットする指が重かった。
あれが、この日記のはじまりだった。
あのときの私に、今の私が何か言えるとしたら。
そう考え始めたら止まらなくなって、仕事から帰ってきてコートも脱がないまま、テーブルに座ってこれを書いている。
あの夜の私が、一番怖かったこと
検索履歴を消しながら泣いてたあの夜のことを、今でもたまに思い出す。
布団の中で、画面の明るさを最低まで下げて。
「女性用風俗」って打ち込むだけで、指が震えてた。
誰に見られるわけでもないのに、部屋の電気を消さないとその文字を打てなかった。
あのときの私が一番怖かったのは、バレることじゃなかった。
こんなことを検索している自分が、本当に存在しているということ。
「寂しいから」じゃ説明がつかなくて、もっと切実な、身体の奥から湧いてくるものに名前をつけた夜も、結局は同じだった。認めるのが怖い。怖いのに、検索する手は止められない。
あの矛盾のまま、何週間もぐるぐるしてた。
今の私が、あの頃の私に伝えたいこと
べつに、劇的に変わったわけじゃない。
朝起きて、満員電車に乗って、会社に行って、帰ってくる。
その繰り返しは今も同じ。貯金が増えたわけでもないし、彼氏ができたわけでもない。
でも、ひとつだけ違うことがある。
帰り道に、自分の顔が少しだけ柔らかくなってることに気づく日がある。
電車の窓に映った自分を見て、「あ、今日の私、ちょっとマシだな」って思える日がある。
それだけ。
たったそれだけのことが、あの頃の私にはなかった。
「情けない」の正体
「今日はどうされたいですか?」って聞かれて涙が出たのは、自分の望みを聞いてもらえたからだった。
それまで私は、自分が何を欲しがっているのかすら、ちゃんと見ようとしていなかったと思う。
- 「情けない」
- 「こんなことでしか満たされないなんて」
- 「お金を払って人に触れてもらうなんて」
ずっとそう思ってた。女性用風俗を使うことが、自分のどこかを否定する行為みたいに感じてた。
でも今は、少し違う見え方をしている。
情けなかったのは、女風を使ったことじゃない。
自分が求めていることを、自分で否定し続けてたこと。欲しいものに「欲しい」って言えなかったこと。あれが一番苦しかった。
ふと、会社の後輩がこの前言ってた言葉を思い出す。
「疲れたときは甘いもの食べるに限りますよね」って、何の気なしに。あの子にとってはチョコレートが自分を回復させる手段で、誰もそれを否定しない。
私にとってのそれが、たまたまチョコレートじゃなかった。それだけのこと。
…と、今ならそう書ける。あの頃は絶対に無理だった。
数字で自分を追い詰めてた日
あのとき、自分のスペックを数字で並べて、「こんな私が」って思ってた。
数字にすると、余計にみじめに見えた。わざとそうしてた部分もあったのかもしれない。自分を痛めつけるために。
今あの数字を見返しても、別に何も変わってないと言えば変わってない。貯金は少し減ったし、彼氏は相変わらずいない。
でも「最後のハグ」の欄は更新された。
お金を払った相手だと言われればそう。否定はしない。
でも、あの安心感は嘘じゃなかった。
あのとき身体の力が抜けていく感覚は、私の身体が確かに受け取ったものだ。
この日記を閉じるまえに
この日記は、最初から最後まで、きれいな結論なんて出ないまま続いてきた。
迷って、調べて、怖くなって、それでも予約して、泣いて、帰って、また迷って。
その繰り返しを、ただ書いてきただけ。
自分の身体と心にお金を使うということについて、私なりに考えた結果がここにある。
正解かどうかはわからない。たぶん一生わからない。
でも、あの夜の私に一つだけ言えるとしたら。
検索履歴、消さなくてよかったよ。
…いや、消していいんだけど。消したっていい。
恥ずかしいなら消せばいい。泣いたっていい。情けなくたっていい。
ただ、消したあとにまた検索バーを開いてしまう自分のことだけは、否定しないでほしい。
その指が止まらないのは、あなたがちゃんと生きてるからだと思うから。
この女風ブログに何度もたどり着いてしまうあなたも、きっと同じだと思う。
私と同じように、布団の中で画面を暗くして、ここを読んでいるのかもしれない。
大丈夫とは言えない。私だって今も、大丈夫かどうかわからないから。
でも、少なくとも、ひとりじゃないよ。

