日曜の夜、布団の中でノートアプリを開いた。
女風について調べてきたメモを見返したら、暗黙のルールが9個も溜まっていた。
水、封筒、DM、営業DM、匂わせ、被り、キャンセル、口コミ、X凍結。
まだ利用もしてない私が、こんなに調べてる。正解がないルールを、ひとりで数える夜。
調べれば調べるほど、ルールが増えていく
日曜の夜、布団の中でスマホを触っていた。
最近の私の夜はだいたいこれだ。女風のSNSを開いて、TLをスクロールして、知らない言葉や暗黙のルールにぶつかって、検索して、混乱して、また別の投稿を見つけて。
今日はなんだか疲れていて、新しい問題を調べる気力がなかった。だから、ここ最近調べてきたことを振り返ってみようと思った。
ノートアプリを開いた。女風のことを調べ始めてから、気になった投稿のメモとか、スクショのファイルとか、検索したワードの断片とか、ぐちゃぐちゃに溜まっている。
スクロールしながら数えてみた。
水のこと。封筒のこと。DMのこと。営業DM。匂わせ投稿。被り。キャンセル。口コミ。X凍結。
9個。
まだ利用経験がほとんどない私が、女性用風俗の暗黙のルールを9個も調べている。
なにやってるんだろう、と思った。また思った。もう何回目かわからない。
でも今日は自嘲だけじゃなくて、もう少し別の感情があった。
こんなに調べたのに、まだ全体像が見えない。見えないどころか、調べるたびに「知らなかったルール」が増えていく。初心者の私には、女風って暗黙のルールが多すぎる。ルール一覧みたいなものがあればいいのに、どこにもない。
息が、詰まる。
ノートアプリに溜まったメモを見返して
メモを上から順に見返していった。
最初に調べたのはお水の話だった。セラピストさんに水を持参するかどうかで意見が割れている、という投稿を見つけて、「たかが水で?」と思ったのが全部の始まりだった。あのとき、女風のSNSにはこんなに暗黙のルールがあるなんて思ってもいなかった。
次に封筒の話。料金を封筒に入れて渡すかどうか。これもSNSで知った。お金の渡し方にまでルールがあるのかと、布団の中で固まった記憶がある。
それからDM問題。予約の前にDMを送るべきなのかどうか。何を書けばいいのか。結局メモ帳に下書きしたまま送れなかったあの夜。
ここまでが「入口」だったんだと思う。女風の世界には暗黙の気遣い文化みたいなものがあって、それを知らないまま行くと恥をかくかもしれない、という恐怖。
でも、入口の先はもっとカオスだった。
SNSで学んだ女風の暗黙ルールを全部並べてみた
メモを見ながら、なんとなく時系列で整理してみることにした。
SNSを見すぎて、感情が揺れた時期
水・封筒・DMの次に私がハマったのは、SNS沼だった。
営業DMにときめいた話。セラピストさんから「会いませんか」ってDMが来て、嬉しくて3回読み返して、翌朝「あれ営業だったんだ」と気づいて枕に顔をうずめた。あの恥ずかしさは今思い出しても胸がきゅっとなる。
営業DMの次は匂わせ問題。セラピストさんの投稿が自分宛なのか営業なのか判別できなくて、深夜にTLを何往復もした。あのとき、SNSを「答え合わせ」に使い始めてしまったんだと思う。
そして被り問題。他のお客さんの存在に気づいた日。嫉妬じゃないと思いたかった。でも「比較してしまう自分」がいて、その自分にショックを受けた。
SNS沼の3つに共通しているのは、全部「見なきゃよかった」と思うのに見てしまう、ということだ。見ないほうが幸せだった。でも知らないまま行くのはもっと怖い。この矛盾は最初からずっと変わっていない。
利用する前後の、具体的な不安
SNS沼を抜けた先には、もっと現実的な不安があった。
キャンセル問題。予約した日に体調が悪くなったらどうするか。生理になったら? 当日キャンセルの作法は? 調べたら、SNSで「当日キャンセルされた」というセラピストさんの投稿と、「体調不良でキャンセルしたら申し訳なさで死にそうだった」というユーザーさんの投稿が並んでいて、どちらの気持ちもわかりすぎた。
口コミ問題。利用した後に他人の口コミを読み漁ってしまう現象。安心したくて検索するのに、読めば読むほど不安になる。自分の感覚を信じたいのに、他人の体験と比べてしまう。
X凍結問題。好きなセラピストさんのアカウントがある日突然消える恐怖。SNSが唯一の連絡手段だった場合、凍結されたらもう繋がれない。プラットフォームに依存することの危うさ。
ここまで書き出して思ったけど、関係ないことが頭をよぎった。職場の先輩が「ルールが多い会社ほど離職率高いんだよ」と言っていたこと。女風の世界にも同じことが言えるのかもしれない。暗黙のルールが多すぎて、入口で立ちすくんでいる人が私以外にもいるんじゃないか。
明文化されないから揉める、でも聞けない
9個並べてみて気づいたことがある。
どの問題にも共通しているのは、「公式のルールがどこにも書いていない」ということだ。
水を持参すべきかどうか、明文化されていない。封筒に入れるべきかどうか、お店のサイトには書いていない。DMの文面の正解も、営業DMへの正しい対処法も、キャンセルの作法も、全部SNSの投稿からしか学べない。
しかもSNSの投稿は人によって意見が違う。セラピスト側とユーザー側でも立場が違えば見え方が変わる。「こうすべき」と断言する人がいれば、「それは押し付けだ」と反論する人もいる。
正解がひとつじゃないのに、空気を読むことを求められている。
この構造が、たぶん全部の「〇〇問題」の根っこにある。
「聞けばいいじゃん」が通用しない空気
「わからないことは聞けばいい」。ふつうはそう思う。
でも女風の暗黙のルールに関しては、「聞くこと自体がマナー違反」のような空気がある。少なくとも私にはそう感じられた。
「水持っていったほうがいいですか?」と聞くこと自体が野暮、みたいな。「封筒に入れたほうがいいですか?」と聞いたら「そういうのは自分で判断して」と言われそうな。
これは私の被害妄想かもしれない。実際に聞いたことがないのだから、聞いたらちゃんと教えてくれるセラピストさんもいるだろう。
でも、SNSのTLを毎晩見ている限り、「聞けない空気」は確かに存在する。
暗黙のルールが暗黙のまま共有される文化。知ってる人は知ってるし、知らない人は知らないまま不安を抱える。
初心者の私には、この文化自体がいちばんのハードルだった。
検索履歴を消しながら女風のことを調べた夜から、もうずいぶん経つ。あの頃と比べたら、知識は増えた。水問題も封筒問題もDM問題も、中身はだいたいわかっている。
でも「わかった」と「安心した」は別だ。
知れば知るほど、「まだ知らないルールがあるんじゃないか」という不安が湧いてくる。底が見えない。
お風呂に入りながら、ぼんやり湯船の水面を見ていた。
空気を読むより、自分の軸を持てたらいいのに
9個の問題を振り返ってみて、最後に思ったこと。
空気を読むのが正解なら、私はたぶんずっと読み間違える。
だって空気は人によって違うから。あるセラピストさんにとっての「嬉しい気遣い」が、別のセラピストさんにとっては「負担」になる。あるユーザーさんにとっての「当然のマナー」が、別のユーザーさんにとっては「知らなかった」になる。
全員の空気を読むなんて無理だ。
だから、たぶん必要なのは「正解を知ること」じゃなくて、「正解がないことを受け入れた上で、自分がどうしたいかを決めること」なんだろう。
水を持っていくかどうか。封筒に入れるかどうか。DMを送るかどうか。全部、自分が「こうしたい」と思ったことを、相手に伝える。違ったら調整する。それだけのこと。
と、頭ではわかる。
でも実際にやれるかと言われたら、まだ自信がない。
だって私はまだ、最初の一歩すらまともに踏めていないのだから。
スマホの画面を消した。部屋が暗くなる。
女風の暗黙のルール、全部並べてみたら9個あった。でも、きっとまだある。これからも新しい「〇〇問題」がSNSに流れてくるんだろう。
怖い。でも、怖いだけじゃない。
9個調べたことで、少しだけ輪郭が見えてきた部分もある。ぜんぶバラバラに見えていた問題が、「暗黙のルールが明文化されていない」という一本の線で繋がった。
それがわかっただけでも、前よりは息がしやすい。
ほんの少しだけ。
明日もきっと夜になったらSNSを開く。また知らないルールに出くわすかもしれない。でも今日みたいに「全部並べてみる」ことはできる。全体像が見えれば、ひとつひとつの問題に振り回されなくなる気がする。
気がするだけで、実際どうかはわからないけど。
布団を頭までかぶって、目を閉じた。
女風の暗黙ルール、多すぎない? でも知っておけば怖くない、と思いたい。思いたいだけかもしれないけど、今はそれでいい。

