給料日の明細を見ながら、電卓アプリを開いた。
手取り21万。そこから家賃、光熱費、通信費、食費。奨学金の返済。積立NISAに回している分。
残るのは、だいたい3万ちょっと。
その3万で、化粧品を買ったり、たまにカフェに行ったり、友達と飲みに行ったりする。
それが私の1ヶ月。
そして今、その3万の中から2万円を、女性用風俗に使おうかどうかで悩んでいる。
2万円の重さを、何度も計算してしまう
電卓で割り算をした。2万円は、飲み会3回分。会社帰りに先輩たちと行く居酒屋が、だいたい1回5,000〜7,000円だから。
美容院1回分でもある。カットとカラーで18,000円くらい。2ヶ月に1回の贅沢。
ユニクロで服を3着買えるくらいの金額。推しのライブのチケット代とほぼ同じ。
こうやって身近なものに換算すると、2万円がどんどん重くなる。
料金表を見たあの日も同じだった。120分で2万円という数字を見たとき、胸の奥がぎゅっとなった。高いのか安いのか、よくわからないまま画面を閉じた。
あれからもう何回、あの料金ページを開いただろう。見るたびに同じところで止まる。金額そのものよりも、「この金額を、この目的のために使う自分」が受け入れられない。
友達の飲み会は迷わないのに
不思議なのは、飲み会の6,000円にはほとんど迷わないこと。
正直、行きたくない飲み会もある。日曜の夜に翌日の仕事を考えると気が重い回とか、話が合わない人が多い回とか。それでも「付き合い」で行く。6,000円払って、翌朝後悔する。
それは迷わないのに。
自分の心のためにお金を使うことには、こんなにもブレーキがかかる。
女性用風俗が高いとかもったいないとか、そういう計算の話じゃない気がする。お金の問題じゃなくて、「私がそれに値するかどうか」の問題なんだと思う。
「自分にお金を使う」が怖い理由
昔からそうだった。
お母さんに似てるのかもしれない。デパートに行っても自分のものは買わず、私の服ばかり見ていた人。「お母さんはいいから」が口癖だった。
私もいつの間にか、同じことをしている。友達の誕生日プレゼントは予算を気にせず選ぶのに、自分の誕生日には何も買わない。ご褒美にコスメを買ってみても、レジで「こんなの買って何になるんだろう」と思ってしまう。
あのときコスメを買って帰った夜のことを思い出す。「自分へのご褒美」のつもりだったのに、帰り道でもう虚しくなっていた。本当に欲しいものはこれじゃないって、わかっていたから。
2万円のコスメは買える。2万円の美容院も行ける。
でも2万円で「誰かに触れてもらう時間」を買うことには、全力で自分にブレーキをかけている。
お金がもったいないんじゃない。そのお金を自分の心に使うことが、怖い。
心に値段をつけるということ
「自分の心のケアに2万円」と考えると、急に大きく感じる。
でも冷静に考えれば、心療内科のカウンセリングだって1回5,000〜10,000円する。マッサージだって90分で12,000円くらい。エステなら2万円なんてざらにある。
身体に使うお金は「メンテナンス」と呼べる。肌のケア、身体のケア、髪のケア。全部ちゃんとした理由がある。
じゃあ、心のケアは?誰かの体温を感じて、安心する時間を持つことは?
それも、メンテナンスだと思えたらいいのに。
でも女風にかかるお金を「心のメンテナンス費」と呼ぶには、まだ自分の中で何かが引っかかる。
たぶん、認めたくないんだと思う。私の心がそこまで疲れていること。お金を払わないと満たされないところまで来ていること。
帰り道、自販機の前で立ち止まった
今日の帰り道、駅前の自販機でホットのカフェオレを買った。150円。
ボタンを押す手が一瞬だけ止まったのは、150円が惜しいからじゃない。
150円は迷わないのに、2万円だと足がすくむ。でも150円のカフェオレを毎日買ったら、1ヶ月で4,500円。2ヶ月で9,000円。4ヶ月ちょっとで2万円。
そう考えたら、2万円って、毎日の小さな息抜きを4ヶ月分まとめたくらいの金額だった。
缶のカフェオレをベンチで飲みながら、スマホを開いた。また料金ページを見ている自分がいた。120分、2万円。この数字はもう覚えてしまった。
ふと、隣のベンチにカップルが座った。女の人が男の人の肩に頭を乗せている。自然に。当たり前みたいに。
目をそらして、カフェオレの最後のひとくちを飲んだ。
あの自然さが、私には2万円なのかと思ったら、また胸のあたりがざわついた。惨めだとかそういう感情ではなくて、なんだろう。もっと静かな痛み。
缶をゴミ箱に入れて、歩き出した。
2万円。高い。高いと思う。
でも、あの自販機の前で一瞬手が止まった理由が、本当は「もったいない」じゃなかったことには、気づいてしまった。
自分の心にお金を使っていいのかどうか。その許可を、まだ自分に出せていない。
今日はここまで。結論は出ない。出ないけど、こうやって書いているうちに、少しだけ何かが動いた気がする。気のせいかもしれないけど。

