金曜の夜、またベッドの上でスマホを握っている。
「女性用風俗」という言葉を知ってから、もう5日になる。5日間、毎晩同じようなことをしている。
布団に入って、電気を消して、画面の明るさを落として検索する。あの深夜にXで見てしまってから、どうにも止まらない。
今日は「出張ホスト」という言葉が引っかかった。
女性用風俗について調べていると、一緒に出てくるのだ。出張ホスト、レンタル彼氏、女性用風俗。似たような、でも違うらしいサービスが次々に画面に並ぶ。
そもそも私、こういうサービスがこんなにたくさんあること自体知らなかった。世界って広い。いや、そういう感動じゃないんだけど。
「出張ホスト」の響きだけで、ページを閉じた
最初に開いたのは出張ホストのサイトだった。
出張ホスト。
名前がもう怖い。ホストクラブの人が自宅に来る、みたいな画が浮かんで、ページを開いた2秒後に閉じた。
閉じてから「いや、ちゃんと読めよ」と自分に突っ込んで、また開いた。
調べてみると、出張ホストは女性用風俗の一種のジャンルらしい。
ホテルとか自宅に来てくれて、食事やデートから、もっと先のことまで。内容は人によってバラバラで、料金もサイトの雰囲気も全然統一されていない。
個人。その一語がずっと引っかかった。
初めてのことで右も左もわからない私が、いきなり個人の男の人にDMを送る。
それって怖すぎない? 何かあったときに相談する先がないのもきつい。
画面をスクロールしながら、無意識に唇を噛んでいた。
レンタル彼氏は、思ってたのと違った
次に出てきたのがレンタル彼氏。
こっちは名前がかわいいからか、少しだけ心理的なハードルが低かった。
自分でもよくわからない感覚だけど、「ホスト」より「彼氏」のほうが怖くないと感じる自分がいる。
言葉ひとつでこんなに印象が変わるんだな、と思いながらサイトを開いた。
レンタル彼氏は、基本的にはデートを一緒に楽しむサービスらしい。カフェでおしゃべりしたり、買い物に行ったり、映画を観たり。
彼氏がいる日常を疑似的に体験するというコンセプト。身体的な接触はほぼなくて、あくまで「時間を共有する」ことがメインとのこと。
なるほど、と思った。健全だ。
でも、同時に、私が欲しいのはそれじゃないんだよな、とも思った。
一緒にカフェに行きたいわけじゃない。隣で映画を観たいわけでもない。
私が欲しいのは、もっと。
もっと近くで誰かの体温を感じること。力を抜いて、身体をゆだねられるような時間。
そこまで自覚した瞬間、自分で自分に引いた。そこまで具体的に分かってるんだ、私。
さらに調べていたら、レンタルフレンドというサービスも見つけた。
こちらはもっとライトで、友達と過ごすような時間を提供してくれるもの。話を聞いてくれたり、一緒にお茶をしたり。
内向的な女性向けのサービスもあるみたいで、それはそれで素敵だなと素直に思った。
でも今の私には、たぶん足りない。話を聞いてほしいんじゃなくて、触れてほしいのだ。この欲求のなまなましさに、自分でちょっと怖くなる。
女性用風俗を改めて調べ直した夜
出張ホスト、レンタル彼氏、レンタルフレンド。それぞれの特徴がなんとなく見えてきたところで、改めて女性用風俗のページに戻った。
女性用風俗は、お店として運営されていて、セラピストと呼ばれる男性スタッフが施術を行うらしい。
予約窓口があって、料金もコースも明示されている。密着したマッサージのようなものから、もっと性的なケアまで、希望に合わせて選べるとのこと。
出張ホストとの一番の違いは、運営体制がしっかりしていること。問い合わせ先があって、セラピストとの間にお店のスタッフが入ってくれる。
レンタル彼氏やレンタルフレンドとの違いは、性的な行為が前提にあること。
「一緒に過ごす」ではなく「触れる・触れられる」に重きを置いている。
読んでいて、胸がどくん、と鳴った。
ああ、たぶんこれだ。私が探していたのは。
安心できる仕組みがあって、身体に触れてもらえるサービス。
そう言語化してしまった瞬間、心臓がうるさくて仕方なかった。認めた。自分が何を求めているのか、ほぼ認めてしまった。
メモ帳に比較表を作り始めた自分
途中で頭を整理したくなって、スマホのメモ帳を開いた。
- 出張ホスト:女性用風俗の前身、内容は幅広い、ギラギラしている
- レンタル彼氏:デート中心、身体接触は手つなぎ程度、疑似恋愛
- レンタルフレンド:友達感覚、会話やお茶、触れ合いはなし
- 女性用風俗:お店運営、セラピストによる施術、性的な行為あり
みたいなことをぽちぽち打っていた。
途中で手が止まった。
私、25歳の金曜の夜に、ベッドで寝転がりながら、男の人に触れてもらうサービスの比較メモを作っている。
冷静に考えてやばい。いや、冷静に考えなくてもやばい。
ふと、今日の昼間のことを思い出した。お昼休みにランチを食べながら、同僚が推しのアイドルのライブ遠征の計画を楽しそうに話していた。
「チケット当たったら名古屋まで行く」って。目がきらきらしていた。
私も何かに目をきらきらさせたい。でも私がきらきらしそうになっている対象が、推しのライブじゃなくて女性用風俗のサービス比較って。笑うしかない。
メモ帳を閉じた。天井を見た。
本当にわからなくなったのは、サービスの違いじゃなかった
出張ホスト、レンタル彼氏、レンタルフレンド、女性用風俗。
調べれば、それぞれの違いは整理できる。
運営体制、サービス内容、身体接触の有無、料金。そういう比較はネットにも情報がある。
でも調べれば調べるほど、わからなくなったのは、サービスの違いじゃなかった。
こういうサービスを真剣に比較検討している自分自身のこと。
「普通の25歳」はこんなことで金曜の夜をつぶさないんじゃないか。
ここまで来たらもう引き返せないところにいるんじゃないか。でも引き返したいのかと聞かれたら、それもよくわからない。
検索履歴がまた増えた。あとで全部消さなきゃ。
でも、ひとつだけわかったこと
もし私が本当に一歩踏み出すなら、個人ではなくお店として体制が整っている女性用風俗が、今の自分には一番合っている気がする。
その判断が正しいかどうかはわからない。正しいかどうかを判断できる基準すら、私は持っていない。
でも少なくとも、自分が何を求めているかは前より少しだけはっきりした。
体温。安心。身体をゆだねる時間。
それを欲しがっている自分を、まだ完全には認められない。でも否定しきることもできなくなっている。
今夜も検索履歴を消した。消しながら、また同じことを思う。
こんなことしてるの私だけなんじゃないかって。でもXで見たあのポストにたくさんの「いいね」がついていたことを思い出すと、私だけじゃないのかもしれないとも思う。
スマホを枕元に伏せて、布団を引き上げた。
もっと詳しくサービスを比べたくなったときの話は、またそのうち書くと思う。今はまだ、比較表をメモ帳に打ち込んで天井を見上げることしかできない。
それがいいことなのか怖いことなのかも、まだわからないけど。

