25歳の誕生日の夜、スマホのメモ帳に自分のスペックを打ち込んでみた。年齢、貯金、彼氏いない歴、最後に誰かに触れてもらった日。数字にしたら、ずっとごまかしてきた自分の現在地が見えてしまった。なんとかなってるふりに、もう限界がきている。
25歳の誕生日に、自分の「スペック」をメモ帳に打ち込んだ
ケーキも買わなかった。
25歳になった日。友達にも言ってない。わざわざ言うほどのことでもないし、言ったところで「おめでとう、ご飯行こ!」みたいな流れになるのが面倒だった。
面倒というか、その場を楽しんだあとにひとりで帰ることを考えると、最初から何もないほうがましだと思ってしまった。
コンビニでプリンを1個だけ買って、部屋の電気もつけないまま食べた。スプーンが底に当たるカチャっていう音だけが響く。こういう誕生日もう何回目だろう。いや、去年は友達とごはんに行ったか。一昨年は彼氏がいたから、ちゃんと祝ってもらえたんだった。
あれから2年。状況は確実に変わっている。
プリンを食べ終えて、ベッドに転がった。天井を見ながら、ふと思った。
私って今、どういう状態なんだろう。
感情じゃなくて、数字で。他人事みたいに、冷静に見てみたらどうなるんだろうって。
スマホのメモ帳を開いて、指が動くままに打ち込んでみた。
年齢25歳、貯金73万、彼氏いない歴2年、最後のハグは1年8ヶ月前
年齢、25歳。職業、都内の中小企業で事務。
年収はたぶん320万くらい。貯金は73万。奨学金の返済が毎月あるから、そんなに残らない。
彼氏なし。最後に誰かと付き合っていたのは2年前。
最後に誰かにハグされたのは、1年8ヶ月前。
元カレと別れるとき、駅の改札の前で「じゃあね」って言われて、そのあとなぜか抱きしめられた。あれが最後。
並べてみたら、すごく「普通」だった。
特別ひどいわけでもない。でも特別いいわけでもない。誰かに相談するほどの不幸でもなくて、でも「充実してるね」とは絶対に言えない。
この中途半端さが一番しんどいのかもしれない。
友達に話したら「いやいや、25で貯金73万あるの偉いよ」って言われると思う。
でもそういうことじゃない。私が見てほしいのはそこじゃなくて、「最後のハグが1年8ヶ月前」のほうなのに、きっと誰もそこには触れてくれない。
触れちゃいけない空気が出てるのかもしれない。
自分でもその数字を見たとき、ちょっと息が詰まった。
メモ帳に数字を並べたら、ごまかしがきかなくなった
ずっと、なんとかなってるつもりだった。
仕事に行って、ご飯を食べて、たまに友達とランチして、Netflixを観て寝る。休日はカフェに行ったり、ドラッグストアで新作のコスメを見たりする。SNSに載せるほどの出来事はないけど、載せなきゃいけないわけでもない。
普通に暮らしてる。普通に、一人で。
でも、メモ帳に数字を並べたら、もう「なんとなく大丈夫」って顔ができなくなった。
「最後に誰かの体温を感じたのはいつ?」
この問いに、即答できない自分がいる。
1年8ヶ月。600日くらい、誰の手にも触れていないということ。握手すらしていない気がする。
美容院でシャンプーしてもらうとき、美容師さんの指が頭皮に触れる瞬間だけが、かろうじて「人の手」だった。前にも書いたけど、私が欲しいのはモノじゃなくて体温なんだと思う。わかってはいた。わかっていたけど、数字にされると逃げ場がない。
それを思い出したとき、自分で自分がかわいそうになった。
かわいそうって思う自分もまた情けない。
「なんとなく寂しい」は気のせいにできるけど、「1年8ヶ月」は気のせいにできない
数字って残酷だなと思う。
「ちょっと寂しいかも」はやり過ごせる。「貯金少ないかもな」も、まあそのうちなんとかなるって思える。でも「73万」とか「1年8ヶ月」とか、具体的な数字はそこに居座って動かない。
私の現在地を、感情抜きで突きつけてくる。
ふと、全然関係ないことを思い出した。高校のとき、体力テストの結果が数字で返ってきて、自分の握力が平均より低かったことにショックを受けたこと。
友達は「そんなの気にしなくていいじゃん」って笑ってたけど、私はその数字がずっと頭に残ってた。握力なんてどうでもいいのに。数字で突きつけられると、どうでもいいことまで気になり始める。
今回はどうでもよくない。
73万も1年8ヶ月も、私の生活そのものだ。
このまま26歳になるのが、たぶん一番こわい
メモ帳に打ち込んだ数字をじっと見ていたら、気づいてしまった。
この数字、来年の今ごろにはもっと悪くなってるかもしれない。
26歳、貯金60万台、彼氏なし継続、最後のハグは2年8ヶ月前。
何もしなかったら、そうなる。確実に。
変わりたいって気持ちは、たぶんずっとあった。でも何をどう変えたらいいのかがわからない。
マッチングアプリは過去に2回やって、2回ともしんどくなってやめた。
写真を選んで、自己紹介文を考えて、知らない人とメッセージをやり取りして、会って、がっかりされて。あの作業をもう一度やる体力が、今の私には残っていない。
寂しいなら恋愛すればいい。触れてほしいなら誰かと付き合えばいい。
正論はわかってる。でもその正論を実行するためのエネルギーが枯渇してる人間はどうしたらいいんだろう。
頑張れない自分が悪いのはわかってる。でも、わかってても動けないときってある。何もしないまま1年が過ぎて、また何もしないまま次の1年が始まろうとしてる。
カレンダーをめくるたびに、ああまた何も変わらなかったなって思う。
老いていくのがこわいんじゃない。何も変わらないまま歳だけ重ねていくのがこわい。
「このままじゃ嫌だ」を、初めてちゃんと思えた夜
メモ帳の画面をスクリーンショットに撮ろうとして、やめた。
誰に見せるわけでもないのに、データとして残すのが怖かった。でも、消すこともできなかった。
あの数字を見て感じたのは、悲しいとか寂しいとかじゃなくて、「嫌だ」だった。
このまま変わらないのが、嫌だ。来年も同じメモを書くことになるのが、嫌だ。最後のハグの数字がただ増えていくのを、黙って眺めていたくない。
お腹の底から「私、なにやってるんだろう」って言葉が湧いてきた。声に出したわけじゃないけど、身体の内側でちゃんと聞こえた。
25年生きてきて、今の私がこれ。
誰かに責められてるわけじゃないのに、自分で自分を責めてしまう。でも、もしかしたらこの「嫌だ」って気持ちは、私にとって必要なものなのかもしれない。
ずっと「まあいいか」で流してきたものに、初めてちゃんと「嫌だ」って言えた。
何をするかはまだわからない。具体的なアクションなんて何も決まっていない。
彼氏を作るのか、趣味を見つけるのか、引っ越すのか。たぶんどれでもない、もっと別の何かな気がする。
ただひとつだけはっきりしているのは、今夜の私は、昨日までの私とは少しだけ違うということ。
「まあいいか」じゃなくて「嫌だ」って思えたこと。
そのことだけが、真っ暗な部屋の中で小さく光っている気がした。
天井を見上げて、思ったこと
ベッドの中でスマホの画面を閉じて、天井を見た。
築年数の古い1Kの天井は、暗がりの中だと輪郭すら見えない。でも確かにそこにある。私の上にかぶさっている。
この部屋みたいだ、私の生活は。見えないふりをしてきたけど、確かにここにある。
そして私は、ここから出たいと思い始めている。
「彼氏を作る」以外の選択肢が思い浮かばないのが、たぶん一番の壁だ。前にコスメを買っても何かが足りなかった話を書いたけど、あのときの「何か」が何なのか、まだ答えは出ていない。
出ていないけど、「答えを出さなきゃ」と思えたこと自体が、今日の小さな収穫なのかもしれない。
今夜はもう寝る。
明日、何が変わるわけでもないと思う。でも、メモ帳のあの数字は、もう見なかったことにはできない。

